帝京長岡サッカーの実像 「もう3位はいらない」練習、生活から徹底する勝者のメンタリティー

サッカー 2021/12/31
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編集者

一昨年よりハードワークでき、昨年より技術があるチーム」と古沢徹監督が語る、今年の帝京長岡高校。150人を越す部員が日々競いながら、互いを高め合っている。常勝と日本一を渇望するチームの実像に迫った。

攻守で試合を支配するサッカー

全国高校選手権の新潟県大会4連覇を狙う帝京長岡高校は 「勝者のメンタリティー」を武器に、独自のスタイルをアップデートさせている。狭いエリアを高精度のパスワークとポジショニングで崩しにかかる攻撃サッカーは今年も健在。ボールを保持しながらピッチを広く使いつつ、ゴール前では細かい中央の崩しも出す。チームの中心は昨年度の全国選手権4強(3位)入りを経験している主将のDF三宅凌太郎、DF佐々木奈琉(共に3年)と、MF廣井蘭人、MF桑原航太、GK佐藤安悟の2年生トリオ。J1湘南ベルマーレ入団内定のDF松村晟怜(3年)は5月に参加したU–18日本代表候補合宿で左膝半月板を損傷。同月に手術を行ったため県大会出場は微妙だが、「無失点優勝に貢献する」と準備を進めている。
前線の要はU–17日本代表でレフティーの廣井。中盤を自由に動き回り、オープン攻撃、ワンツーからの中央突破、個人技での切り崩しと多彩なオプションで攻撃をけん引する。両翼からは右サイドバック(SB)の佐々木とU–16日本代表候補の左SB内山開翔(1年)が積極的に飛び出し、好機に関わる。ゴール前ではDF登録ながらFW起用が続く三宅が待ち構える。守備は桑原が忠実なマーキングと読みの良さを中央で発揮しラインをコントロール。GK佐藤も183センチの長身を生かしたダイナミックなセービングで、ゴールに鍵を掛ける。

県高校総体は準決勝で開志学園JSC高等部に0–1で敗戦。その日の午後、チームは長岡市で練習を再開させた。「うちはうちのサッカーを貫く。攻守で試合を支配できるチームを作り上げる」と監督の古沢徹は選手に誓った。その後、7月に開催されたプリンスリーグ北信越の連戦は、北越高校に3–1、松本山雅U–18に3–1、新潟明訓高校に6–1と3連勝を飾った。特に新潟明訓戦は自陣に放り込まれるロングボールを跳ね返すだけでなく、セカンドボールを回収する数で相手を上回り、2次・3次攻撃につなげた。古沢は「相手に(ロングボールを)『蹴られる』と『蹴らせる』は別。トライ&エラーを繰り返し、この夏場でさらに守備面を強化させる」。

帝京長岡サッカーの頭脳、古沢徹監督(右)と谷口哲朗総監督(左)

誰一人としてスタメンの保証なし

帝京長岡は「勝利と育成の両立」へ向けた独自メソッドを、いち早く取り入れた。実質的な下部組織に当たる長岡ジュニアユースFC(長岡JYFC)とは同じグラウンドで練習を行い、一環指導体制を確立。総監督・谷口哲朗の母校・帝京高校(東京)時代のチームメートで、帝京長岡のヘッドコーチも兼ねる西田勝彦が理事長を務める長岡JYFCは2001年に創立。U–6(幼児)世代から子供たちを受け入れ、ボールを正確に扱う技術や個人戦術を身に付けさせている。世代別の日本代表候補に選出されている松村、廣井、内山は長岡JYFCの出身。こうして下から育ってくる選手たちと、高校から新たに加わる選手たちの個性がミックスしたチームは勝利を重ねながら、総合力を高めてきた。

主将としてチームを引っ張る三宅。本来はDFだが、「シュートがうまいので」(古沢監督)と、FWで起用されることも多い

練習は朝夕の2部構成。朝練ではボールを「止める・蹴る」といった個人スキルを磨くことに重点を置きながら、戦術練習も取り入れる。夕方は、より心拍数を上げながら、狭いエリアでのパス回しや複数でのシュート練習を繰り返す。帝京長岡は公式戦で下級生を積極的に起用するため、日々の練習から常に真剣勝負。「まずはチームの競争に勝たないと」と廣井が話すように、現レギュラー選手でもスタメンの保証はなく、各局面で力を出し切ることが求められる。激しい競争を繰り返す中、全選手が「勝ち」を意識することで、「勝者のメンタリティー」は自然と刻まれていく。

専用寮が完成。整骨院も併設

本気で全国制覇を狙う帝京長岡はピッチ外の細部に至るまで、とことんこだわる。今年4月にはサッカー部専用の寮が完成。寮生はこれまでは7つの下宿先から学校に通っていたが、よりサッカーに集中できる環境を整えた。寮内では睡眠の質を妨げる要因と言われるブルーライトに触れる機会を減らすため、タブレット端末の充電器は廊下に設置。7時間以上の睡眠時間を確保させるために、夜10時の消灯後は室内へのスマホ持ち込みを禁止している。また、平日の洗濯物は代行業者に委託し、寮生の負担を減らしている。
さらに、全選手が日々の練習で100%の力を発揮できるよう、コンディション管理も徹底する。
夕方の練習前には白米、卵、シラスといった栄養価の高い補食を食堂棟に用意。毎日2リットル以上の水分を摂取し、体内に溜まった老廃物を排出するように促す。「朝、昼、補食、晩の食事に加え、プロテインでアミノ酸を摂取することを進めている。体つきが変わったし、けがが減ってきた」(古沢)。食堂棟に併設された整骨院にはチームトレーナーが在住。温冷交代浴での疲労回復や、リハビリ指導など、充実した設備で選手を支えている。

『全国に出続けるチームから、日本一を狙い続けるチームへ』。2年連続全国選手権4強入りという快挙は、もう過去のこと。現チーム始動初日となった今年1月25日。まだ雪の残るピッチで古沢は
「もう3位はいらない。日本一を取ろう」
と選手と約束した。

150人を越える部員は激しい競争を繰り広げ、今年の全国選手権の準決勝・決勝が行われる国立競技場に「忘れ物」を取りに戻ることを目標に掲げる。常勝軍団をけん引する三宅は、「先を見すぎず、まずは県代表を目指す」と一戦必勝を誓った。

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