新潟県ラグビーフットボール協会の三膳惣一会長にご協力いただき、これだけ知っていればラグビーを見るのが面白くなってくるトピックを厳選。ムチャクチャ盛り上がった日本開催W杯の熱を受け、注目が集まるトップリーグや学生ラグビーなどの観戦にも、ぜひチャレンジしてみてほしい。
■つまりは「陣取りゲーム」である
サッカーなどと比べて「とっつきにくい」と思われがちなラグビー。選手が多い、ポジションが細かい、ルールが複雑…などが理由だ。しかし、競技の根本にあるのは、敵側のフィールドへいかにボールを進めるか、また、それをいかに阻止するか。相手の陣地の先にある「ゴール」へ向かって押し合いを戦略的に繰り返す「陣取りゲーム」だと考えれば分かりやすい。
■タックルは練習と度胸の賜物
ラグビーの代表的プレーであるタックルは、相手を倒すだけでなく、リリースされたボールを争奪するきっかけにもなる大変重要なものだ。しかし、相手もタックルを想定してステップを踏んでくるので、有効に決めるのはとても難しい。ましてや岩のような巨漢の選手だったら…。
「でも、日本代表レベルなら一発で決める。そういう選手じゃないと代表は務まりません」(三膳会長)というように、一人のタックルの不発が、ボールを奪えないどころか敵に大きなチャンスを与えることにもなりかねない。逆に、相手を倒し、かつボールの支配権も奪取する「ナイスタックル」が出ると、試合は大いに盛り上がる。
■可能なら「生で観戦」がオススメ
得点を狙うには、敵がいない攻めどころへボールをどう回すのかが重要だ。これは、サッカーやバスケットボールなどと同じ。でも、ラグビーではボールプレーヤーよりも前にいる選手はプレーに参加できない(オフサイドになる)。先回りしてボールを待つことはできないのだ。
「空きスペースにボールを送るには、パスをつなぐか、キックで飛ばすか。その時走り込む選手は誰なのか…。スタンドから広く見渡すことで、戦略を深く感じることができます」(三膳会長)。フィールドを駆ける選手と共に、同じ場所で同じことを考える一体感。至福の時を味わうには、やはりスタジアムでの観戦が一番なのだ。
■魅力は非日常の「ぶつかり合い」
スポーツの種類は数あれど、「体を使って相手の動きを封じるコンタクトプレー」が認められているスポーツは少ない。ラグビーの魅力の一つ、それは「体を張ってタックルやスクラムすることでゲームの流れを変える非日常性」にあると心得よう(なお、タグラグビーはコンタクトプレーを禁止している)。
■ボールをいかに動かし続けるか
タックルがディフェンスの花だとすれば、スピーディーで巧みなパス回しはオフ ェンスの見せ場。素早いボールさばきでパスを繰り返しつつゴールラインに迫る様は、ラグビーのもう一つの魅力だ。タックルで動きを止められても倒れる前にパスを出せば、パスを受けた仲間が勢いを引き継いでくれる。そんな理想的なプレーでボールが動き続ける試合を作れるかが勝負の分かれ目だ。
■「点」ではなく「面」に注目
球技の観戦ではついついタマの行方ばかりを追ってしまうが、そんな「点」を見るだけではゲームの面白さは味わえない。特にラグビーは、ボールを持った選手と、その横や後ろに広がった選手が一体となった「面」の競技。ラグビーは自分よりも後ろにパスを出さなければならない。そのため、この「面」が攻撃ラインとなって敵陣に押し込んでいく。このとき、面を構成する選手が敵陣のどこに進むのかが重要になってくる。ボールを持っていない選手の動きに注目したい。
■「アドバンテージ」はチャンスの入口
「反則があったのにレフェリーが試合を止めない。なぜ?」という時、それは「アドバンテージ」を取っている状態だと考えられる。このアドバンテージが分かってくると、ラグビーのややこしさを解決するきっかけになるかもしれない。
あなたはチームの一員として試合の真っ最中。今、相手チームが軽い反則をした。仮に前にボールを落とす反則「ノックオン」だ ったとしよう。反則なのでレフェリーは笛を吹いてプレーを止めるところだが、あなたのチームメートが落ちたボールを素早く拾って攻撃に転じた。すると、レフェリーは「アドバンテージ」を宣言して反則を流した(保留した)。試合進行を止めて反則を取り、あなたのチームに利益を与えるよりも、今の状況で試合を続行した方がプラスになる、と解釈したからだ。
なお、アドバンテージを宣言したが「相手チームの方が有利になった」または「あなたのチームに反則があった」場合は、さかのぼ ってアドバンテージの起点となった反則を取る。つまり、この状況はどちらに転んでもあなたのチームにとってはオイシイわけで、ダメ元のキックパスをするなど、思い切った攻撃を仕掛けるチャンスともいえる。アドバンテージが、見せ場につながるゴールデンタイムの始まりになることも少なくない。
また、アドバンテージは解消もある。例えば、あなたのチームメ ートがボールを持ったままかなり攻め上がった場合など、つまり十分に利益を得たと判断された時などに、レフェリーが「アドバンテージオーバー」を宣言してアドバンテージ状態を終える。
■「ノーサイド」は日本生まれ
試合が終われば敵味方関係なしという意味の言葉「ノーサイド」。ラグビーの本場イギリスから伝わったもの、ではなく、そんなスポーツマンシップに対して日本が付けた言葉なのだという。「日本の武士道と響き合うところがあったのかも」(三膳会長)しれないが、いまや日本から世界に発信される言葉になった。アレクサンドル・デュマの小説『三銃士』に登場する有名な「One for all.All for one.」の一節をラグビーの精神に重ねたのも日本だ。
ちなみに、ノーサイドスピリットにのっとり、試合が終わった後は、選手、審判、スタッフが集まり軽食を取る「アフターマッチファンクション」という場が設けられる。お互いの健闘を称え合い、エールの交換をし、本当のノーサイドとなるわけである。
profile
三膳惣一(さんぜん・そういち)◎1952年(昭和27)4月5日生まれ。新潟市中央区出身。新潟県ラグビーフットボール協会事務局長-専務理事を経て、昨年から会長を務める。カンタベリーオブニュージーランド ラブラ万代オーナーとしてもラグビープレーヤーをサポートする。
(Standard新潟/2019年4・5月号掲載を再編集)