清水エスパルスから期限付き移籍で加入した鄭大世(チョン・テセ)。36歳のベテランFWは、ドイツ・ブンデスリーガや韓国・K1リーグでも活躍。J1とJ2の公式戦通算で269試合出場108得点と、決定力に問題を抱えるアルビレックス新潟にとって待望の点取り屋だ。
8月26日チームに合流し、練習後に早速、新潟の報道陣の質問に答えてくれた。コロナ禍の状況下にもかかわらず、およそ20分にわたった会見でのコメントをお届けする。
合流後の初練習
―新鮮ですね。5年間エスパルスでやっていたんで。全く別のトレーニングに入るというのはすごい新鮮です。
練習前のミーティングで話したこと
―僕が話したというよりも、みんなすごい期待してくれているということを感じた。期待感、すごいうれしかったです。
加入時のエピソード
―(GM兼)強化部長の玉乃(淳)さんが「絶対にチームに必要な選手がやっと来てくれた。めちゃめちゃ口説いたんだよ、なかなか(交渉が)進まなくてさ。エスパルスのレジェンドだから。そんな簡単にいくわけないから、ちょっとずつ継続してトライした結果がこうやって結び付いた。本当にありがとう」と言われた時に、めちゃめちゃうれしかったです。
自分は試合に出てもいいんだ、と。向こう(清水)ではどう頑張っても試合に出れなかったから。このまま終わるのかなと思ったけど、自分を試合に出したいとはっきり言ってくれるクラブがあったことはすごいうれしかったし、それが新潟という歴史あるクラブだったので、なおさらうれしかったです。
自身のストロングポイント
―感情なんで。僕はもう相当感情的な人間なんで、そういう戦う気持ちとか、ゴールへの執着心は誰にも負けない。コンディションを上げるには少し時間がかかるかもしれないですけど、そういう特長を見せていきたい。
新潟の印象
―新潟はもともと手堅いチームの印象があったんです、川崎(フロンターレ)時代とか。ここ最近は監督が代わって後ろからつなぐサッカーになっている。
新潟のサポーター
―ずっと昔から新潟のスタジアムだけはすごい異様な雰囲気だったので、その時はすごいやりにくかった。でも今は自分の背中を押してくれるんで、すごい頼もしいです。
若い選手が多い
―今は若い選手がいっぱい出てきているけど、僕、結構イエスマンが好きなんで(笑)。若手は大好きです(笑)。若手といつも遊んでいます。
若手って僕としゃべると委縮するんですよね(笑)。こう言っちゃなんだけど、僕すっごい天然だから、めっちゃやらかすんですよね。だぶん今、僕がやらかしたらみんなクっと目を反らすと思うんです。それもちゃんといじってもらえるようにしたいですね。
チームメート田中達也との会話
―クラブのレジェンドに対しては、リスペクトは絶対に欠いてはいけないと思うので。失礼のないように話しました。
最近の新潟の試合について
―直近の試合(琉球戦)を見ました。割と後ろからつないで丁寧にやっているなという印象ですね。ファビオが抜けているから、そこが入ったらまた全然変わるんだろうなとは思うんだけど。運動量豊富で、守備もしっかり間を切るんで、前から追わずにちょっと下がって、4-4-2でしっかりとグループボックス作って、丁寧に(ボールを)持っていく。試合も勝ったし、無失点というのは確実に理由があるんです。すごい良いチームだなと思いました。
新潟は決定力が課題
―決定力ですか。ファビオと出るとなったら、僕はファビオが点を取れるようにしますけどね。僕がエスパルスにいた時も大前元紀(現ザスパクサツ群馬)とウタカ(現京都サンガ)が点を取れるように、と。まずは勝つために。
ファビオが出るんだったファビオに取らせるし、ファビオが出ないんだったら、僕はできるだけゴール前で(勝負する)。決定力にはもちろん自信ありますよ。調子いい時も悪い時も、出ている時も出ていない時も、(試合に)出たらやっぱり取れるという自信はある。なおさら今それ(自信)が固まっているし、コンディションさえ上がればできると思います。
J1昇格の経験を生かしたい
―そう願いますね。僕の仕事は点取ることで、周りが期待してくれていることもそれだと思うんで。先制点を取ったら、ゲームは7割勝つんです。先制点を取る、リードされない。そのためには、やっぱり守備力がしっかりしなければ。いい守備からいい攻撃は生まれる。そうやってうまく点を取っていけば目標は達成できると思います。
このチームに来た意味
―個人のことで話させてもらうと、今年めちゃくちゃコンディションが良くて。去年、一昨年は練習が楽過ぎてコンディションが上がんなかったんですけど、今年はすごい練習がきつくて、きつい練習をすればコンディションは上がるんですよね。だから絶対、出たらやれるという自信があったし、練習試合で誰よりも、2位の(選手の)2倍も3倍も点を取っていたのに、試合に出させてもらえなかった。もうこのまま終わるんかなぁ、自分は必要とされていないのかなぁ、こうやってみんな終わっていくんだろうなぁ、と思っていた時に、どうしても来てほしいという声を聞いて、すっごいうれしくて。ぜひ、ということでここに来ました。
目標としているJ1昇格、したいですね。またあの喜び。自分のサッカーを振り返って、1番はワールドカップに出た時の試合で、2番はJ1に昇格した時。あの時の感情は忘れられない。あの成功体験というのは死ぬまで残ると思う。その体験をまた、ここでもしたいです。
サポーターに一言
―あのアウェーの時にすごい嫌だったサポーターの方たちと共にプレーできるというのは、プレーヤーとしての喜びそのものです。
玉乃GMの30日以上もかけた情熱的なオファー
―(その情熱は)玉乃さん限定になりますけどね(笑)。自分の気持ちをストレートに伝えるタイプ、自分の感情をそのまま口に出すタイプだと思うんで。
交渉時の印象的なコメント
―「どうしても来てほしい」という、その、言葉の質じゃないですよね、玉乃さんの場合は。言葉に乗っかっている感情だと思うんで。面白いですよね。ああいう人は久々に見ましたね。今の状況の自分には、そのストレートな表現はグサッと来ましたね。
清水での葛藤
―葛藤しかいなかったですね。それに対する向き合い方っていうのは学んでいたんで。それでもやっぱり監督を恨みますよね。でも監督のせいじゃないと思うところもあるし。こればっかりは自分の思い通りにはならないんで。年取っていったら、どんどん自分の思い通りにいかないと思うんですよね。達也さんと話すと共感する部分。若い時はちょっと練習で良ければすぐに使ってくれるし、外された時も点取りたい時はすぐ使ってくれる。でもだんだんそれが変わってくるんですよね、自分の立場っていうのが。自分が思っている自分に比べて、周りから見た自分が変化してきている。これまでだったら余裕で出られる、出さなきゃもったいないでしょ、ていうくらいのパフォーマンスがあるのに。自分では納得していても、悔しかったですね。
出たら絶対(ゴールを)決められる自信はあったし。だって練習試合で何点も決めているんだもの。でもそれは監督を恨めないですよ。それは監督が全部責任取らないといけないし。自分が納得していればそれでいい。監督と自分のスタイルが違うというだけのことなんで。
アルベルトサッカーでの自身の成長
―試合に出れば絶対成長できます。出られなかったら人間的な成長を選びます。それに尽きます。
ゲームイメージ
―ワントップ、前の選手はけっこう特殊なんで。別にビルドアップに絡むわけじゃないから、どう(動くか)というのはあんまりないですよね。自分の特長をずっと出し続ければいいから。どういうサッカーでも自分のできることだけを見せることが大事で、監督は自分のイメージがあっても、他の事ができてチームを勝たせられるんだったらその選手を使うから。(自分は)エスパルスの時にそれができなかったから使われなかった。アルベルト監督もそういうふうに使ってくれることを願っています。
だから前線を、前を見てもらえるように選手たちとコミュニケーションを取らないといけないなと思っています。自分の特長を分かってもらわないといけないんで。
川崎時代に中村憲剛などベテランから学んだこと
―僕は学んだというか、仕事させられていたんで(笑)。走らされていたし。要求するんですよね、そういうベテラン選手は。パスにメッセージをガンガン込められるんですよね。全然自分が準備できていないのにすごい速いパスが出てきて、反応できないとブチ切られていた。
そういうことなんです。だから自分が今のタイミングで(ボールを)欲しい時に中盤の選手がポゼッション、ボールを失いたくないから横パスを選択した時は怒んなきゃいけないと思う。そういう戦いだと思うんですよね、FWって。ポゼッションサッカーがはやり出した頃、勘違いしてボール支配率を上げればいいっていう考えが蔓延した。そうじゃなくて、FWが裏を取れるタイミングで動き出して、そこに出せばゴールが取れるでしょってこと。サッカーはゴールを取るスポーツだから、ポゼッションより大事ということを、はき違えている世代、若手には、考え方を変えてあげないといけないと思います。
profile 鄭大世(チョン・テセ)◉1984年3月2日生まれ、愛知県出身。愛知朝鮮中高級学校から朝鮮大学校を経て、2006年に川崎フロンターレと契約。5シーズン目の10年にドイツ・ブンデスリーガ2部のボーフムへ移籍。ドイツで3シーズンプレーした後は、韓国・K1リーグの水原三星ブルーウィングス、Jリーグの清水エスパルスに在籍した。アルビレックス新潟で移籍期間は20年8月26日から21年1月31日。背番号49。身長181㎝、体重80kg。